国防の基幹である陸上自衛隊で悲惨な銃撃事件が発生した。18歳の自衛官候補生が、上司たる52歳の陸曹と25歳の先輩隊員の命を奪った。上司のパワハラに対する報復か。人間関係のモツレか。18歳に対する自衛隊での生活環境や、未成年隊員に実弾を配布して射撃訓練を実施する事の是非が報道されている。
大間違いだ。基本的に隊員不足に悩む自衛隊は採用年齢の大幅な拡大や、即応予備自衛官の拡充などで人的対応力の強化を図り、充足率の向上に躍起となっているところ。常日頃から自衛隊に必要以上のバッシングを行っている報道機関は「美味しい素材」にありつけたようだ。銃を渡し、実弾を与えれば、この種の事件は必ず起こる可能性は残念ながら確実にある。
「殺意があったか」――この件に集中するが、その殺意以上の動機がある。
「やってみたい」「撃ってみたい…」「これをやったらどうなるか…」殺意以上の「欲望」があった。射場の奥行き約3百メートルを越す室内射場で、射手1人につき、ベテランの安全係と助教格の若い陸曹が対応する。各隊員は弾薬を受領して確認。待機線に前進して、待機。前方の射手が射ち終り、薬莢を回収して実射弾数を確認。この時、初めて銃に弾倉を装着して発射号令を待つ。しかし、前段の射手が百パーセント回収しなければ、次の番は来ない。室内射場は十文字演習場のような室外射場と違い、比較的見つけ易い。それでも不明の場合もある。判明回収するまでそれこそ回収率百パーセントまで何時間かけても探す。自動小銃の反動と排莢で被服のポケットや壁のすき間に隠れ込む事もある。発射前から薬莢回収まで徹底した安全管理を実施する。
問題は射手の「心の安全」だ。52歳の1等陸曹といえば定年に近いオヤジ格。25歳の3曹は営内居住者が多く「兄貴」的な存在。「犯行」に走った隊員(候補生)は安全係の1曹に2発。3曹2人に1発づつ、計4発の引き鉄を引いた。1人の人間に2発射つという事は2発目は「とどめ」の一撃だ。「とどめ」とは、確実な死を求めた無慈悲な1発である。ここに「殺意」以上の激しい冷酷さが存在する。パワハラとか上司のイジメなどの理由ではない。
この世界はほとんど皆、この障壁を乗り越えて、営門をくぐり、次の人生を歩みだす。52歳といえば30年を過ぎた勤務。多くの国民に安全と安心を提供して、身を粉にして日々を積み重ねた日本の恩人の1人と推察する。この人は宮崎県の出身で、最近初孫が生まれ、よく友人らに孫の自慢話をしていた、温かい人柄だったという。
オヤジ格、兄貴格の上司を殺害する行為は間違いなく「国家反逆罪」。常識の国なら銃殺処分に相当する深き罪。
未成年の実弾射撃を批判するが、自衛隊には少年高科学校があり、中学卒業後の進路でここの門をたたく生徒も多い。国民を守るために銃を手にする青少年の姿があり、この種の事件は皆無である。実は銃の本当の「安全装置」は、射手の心の中にある。 (陽)