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展示されている作品
岩尾秀樹展は美術館二階の三つのゾーンに油彩・素描など100点を展示し、市制100周年、三好民郎さん提案で生誕100年記念と合わせて「トリプル100」としました。また年譜や写真、記録などの展示のコーナーを設けて、敢えて順路は表示せず、どこからでも観覧できるようにしました。それは岩尾秀樹覚え書「緑陰のひとりごと」にある「海図なき出発」であり、「エカキはまさに孤独な航海士」という本人の言葉にふさわしいものだと考えたからです。
連日多くの方々が観覧しています。オープニングに合わせて、遠くは関東や広島から来た方々、別府大学時代に指導を受けた方、生前に交流のあった方、それぞれが画伯との再会を楽しんでいるのです。決まって思い出の作品の前に向かい合って、鑑賞と同時に画伯と語り合っているようです。それは宇治山哲平の知遇を得て、国画会会員として活躍し、県洋画壇をリードした画伯の世界「いのちのカタチ」との対話であり、まるで李白の『山中問答』のようでもあります。
開催準備をしている時、知人から作品2点を所蔵している親類がいると紹介されました。話を聞くとアトリエを建築施工した小笹昭洋氏の所蔵でした。作品は建築中に画伯が描いた《丘の上の家》と題する水彩画と新築祝いに関係者に配布された二羽の鳥と画伯の友人で俳人の田原千暉の句が添えられたシルクスクリーン。この作品を見た画家の檜垣正喜氏は展示予定の写真について、「僕が同行した画伯の最後のスケッチ旅行(くじゅう花公園にて)は彼が運転をし、写真も撮影した」と教えてくれました。
画伯は2013年、享年88歳で逝去し、70年に及ぶ画業に幕を閉じました。しかし絵を描き続け、美を求め続けた画家・岩尾秀樹の作品は、「生誕100年記念岩尾秀樹展」を通じて、今も鑑賞する者に囁き、ものがたりは続いているのです。
(つづく)
文・檜垣伸晶別府市美術館長