一般社団法人福祉フォーラムin別府実行委員会は、2019年度別府市委託事業「別府市インクルーシブ防災事業」の報告書「平時から地域が動く 地域と動く」をまとめた。
別府市では「みんなが助かる」ことが出来る地域の仕組みづくりに取り組んできた。障がいのある人が地域と一緒になって訓練をすることで、「顔の見える関係」を築き、災害が発生した時には助け合うことが出来る仕組みで「別府モデル」として、全国から注目を集めている。
平成26年に施行された「別府市障害のある人もない人も安心して安全に暮らせる条例」では、全国で初めて条例の中に「防災」を盛り込んだ。平成28年度から日本財団の助成を受けて、3年間にわたり、亀川古市町を中心として訓練や障がいのある人、1人ひとりの個別支援計画を作るなどの取り組みをしてきた。2019年度から別府市の独自事業として福祉フォーラムが委託して実施している。
これまでは、地域の中に障がいを持った人が生活をしていたが、地域で行われる訓練には参加がほぼなかった。当事者の「訓練に参加して迷惑をかけるのではないか」という思いや、地域の「どう対応して良いのか分からない」という思いが壁となっていたように思われる。しかし、福祉フォーラムがかかわることで、当事者の参加が少しずつ増えてきた。訓練に参加してもらうために、地域と何度も話し合いを続け、どういった支援が必要かということが見えてくるように。障がいのある人もただ「助けられる」存在ではなく、障がいの程度によって自分が「助ける」ことが出来ることが分かり、家族共々、訓練に参加してみようという意識が高まっている。また、地域もどうすれば助けることが出来るか、試行錯誤するようになった。
2019年度は、緑丘地区で避難所のモデル訓練を行い、視覚障がい者や車椅子利用者、知的障がい者など多くの障がいを持った人が参加。障がいをもった人が避難所で生活することの大変さを改めて感じていた。また、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため中止となった、「南地区浸水域防災訓練」では、電動車椅子利用者と話し合い、電動車椅子の重さをカバーするため、普通の車椅子に乗せて抱える訓練もしてみた。実際にやってみないと分からない部分も多く、支援のための研修が必要との声もあった。
地域が支援をするためには、1人ひとりの障がいの程度や特徴を知ることが必要になる。そのためにも、個別支援計画を策定することは重要。ケアプランを作る際に「防災」についても視野に入れて作ることで、対応が可能と思われる。さらに、福祉施設においては、多くの利用者がいて、介護支援をしている最中に災害が発生することも予想されることから、事業継続計画の策定も進めてきた。
報告書には、東日本大震災を経験した社会福祉法人石巻祥心会の斎藤康隆さんの講演の内容なども詳しく掲載している。緑丘や南地区の訓練の協議の様子などをおさめたDVDも作成した。
インクルーシブ防災を推進する村野淳子市防災危機管理課防災推進専門員は「一緒に訓練をすることが必要。訓練を通じてお互いを知ることで、当事者やその家族、地域にも大きな変化が起きていると思う。障がいが重い人も地域で暮らしている。個人を把握していなければ、受け入れの準備が出来ない。防災を通じてつながった障がいのある人と地域の人が、日頃、街中で会って声をかけ合うことがあると聞く。そういったことが大切で、みんなが助かるということにつながると思う」と話す。
災害はいつどこで起きるか分からない。家族やケアマネージャー等支援する側も被災することから、必ず助けが来るとは限らない。日頃から「顔の見える付き合い」をし、情報を共有する「共助」が1人でも多くの命を救うことにつながるという。