退職校長の甲斐直彦さん

BYCAをオープンした甲斐さん(右)とスタッフ
こん身の一杯をいれる甲斐さん

 別府市野口元町に「別府湯けむりカフェ油屋」(BYCA)がオープンして半年。経営する甲斐直彦さん(68)に話しを聞いた。
 別府鶴見丘高校を卒業して立教大学に進学。東京暮らしが始まったとき、コーヒーと出会った。「高校時代は喫茶店に出入りすると不良といわれた時代。池袋の下宿でサイホンでたてたコーヒーを楽しむのが精いっぱいのぜいたくで、それ以来、コーヒーが趣味になった」
 大学を卒業して教員生活が始まる。振り出しは県立安心院高校で、以来38年間にわたり教べんを取った。8年前に県立佐伯鶴城高校校長を定年退職。生家は江戸時代から160年続く「油屋」。石垣の畑で栽培したナタネから油を搾る。そのナタネ油は地元のほか、船で上方(大阪)に運んで商売していた。
 「昔は野口界わいに『板屋』『奥屋』『田辺屋』と多くの屋号の店があった。昭和30年、40年代の高度経済成長のころは下野口繁栄会があり、にぎやかだった。夏の盆踊り大会では子ども会や婦人会がそろいの浴衣で野口通りをうめたものです。そんな地元の歴史を大切にしたい。油屋の母家を残したい思いをカフェに込めた」
 校長時代は職員に忙しい思いをさせたくないと、校長室で自分でコーヒーをいれて来客をもてなすと喜んでくれた。コーヒーの「一期一会」だなと思うようになり、その味にこだわる。
 お店では4種類のブレンドコーヒー(500円)と6種類のストレートコーヒー(600円)やスイーツ(300円)を提供する。気づいたことを書きとめるコーヒー日記は大学ノート6冊にもなった。コーヒー作りは手間がかかる。釜の温度を220度にして生豆を投入、10~15分焼いてクールダウンする一連の作業に1時間かかる。こん身の一杯は深煎りのキリマンジェロで、ほろ苦さの後に甘さがやってくる。
 甲斐さんと息子の文章さん(27)、アルバイトの笠岡美斗さん(21)の3人態勢。お店の2階は一日一組限定の宿。3年前にオープンした「別府油屋トレーラーハウス」(BATH)はインスタグラムで情報発信して福岡、熊本の客もいる。株式会社油屋の社長。