「父と仕事をするのが長い間の夢でした…」―上田の湯の老舗ホテル「白菊」は西田陽一社長の長男、吉德(よしのり)さんが10年の「修業」を経て帰郷。ホテル総務部で父の跡を継ぐべく家業の見習いを始めた。
ホテル白菊は終戦直後の別府観光草創期に観光事業の最前線に立ち、大分県議会議員として活躍した故西田熊太郎氏が1950(昭和25)年に開設。25年には創業75周年を迎える。社長は熊太郎氏から功氏(陽一社長の実父)、友行氏(叔父)陽一氏が4代目。
吉德さんは平成2年生まれの33歳。山の手中―県立別府鶴見丘高校から慶応義塾大学商学部を卒業後サントリーに入社。大阪本社経理部、九州営業本部、東京の商品研究部門を経験した。自身は小学校の頃から大学まで野球、サッカーと文武両道一筋、現在独身。
帰郷の決断は3年に及ぶ新型コロナウイルス感染症拡大の災禍。宿泊はじめ料飲、観光の各事業に重篤な被害をもたらした。
今こそ「白菊」に戻り、「父のもとで再出発をはたす!」エリートサラリーマンとしてのキャリアを「返納」しての帰郷だ。白菊のフロントでのインタビュー、陽一社長も上司として立ち会い、我が子の成長に目を細める。とは言うものの、陽一社長御自身もバリバリの現役で、別府市旅館ホテル組合の理事長。コロナ収束後の本格的なインバウンド対策や、観光ホスピタリティーの質的向上、サービス業界の人材確保、教育養成はじめ、観光客誘致拡大―など、その重責は両肩にズッシリとのしかかる。
吉德さんは、「これから百年企業をめざします。サントリーで学んだ事は、社員が『自社愛』にあふれている事。白菊も人々から愛される職場に…。祖母から育てられました。毎日のようにラクテンチに連れていってもらい、茶ワン蒸しとキュウリで育ちました」と話すと、祖母で大女将のキヨ子さんが登場。「ウチの孫を何卒よろしくお願いしま~す!」といつも明るい笑顔でこのインタビューを締めくくってくれた。