「五輪」という名の戦場

 ロシアはなせ、ウクライナに侵攻しようとするのか。領土的野心の表われか。西側諸国のあい次ぐ批判を無視してまで、手中に納めようとするのか。他国への侵攻は決して容認できない。一方、ここでロシア側の現在の状況も知る必要がある。我々はどちらかといえば西側の情報ばかりで判断する。今回は「ロシア」について触れてみたい。この国は古くは13世紀モンゴル帝国の襲来。17世紀はナポレオン率いるフランス軍。第2次大戦中はヒットラー率いるナチスドイツ、次々に領土を蹂躙され、大都市モスクワが侵攻によって
幾度となく焦土と化した。
 ロシアの領土防衛の基本理念は▽安定された政治力、軍事力▽ロシアを取り囲む緩衝地帯の存在▽強力なリーダーシップ―――の3点が掲げられている。ロシア国民にウクライナ状態の世論調査をしたところ、軍事的衝突を招こうとする原因は▽アメリカ▽NATOの拡大▽ウクライナの国情の3点が9割に近い国民共通のコンセンサスとして形成されているという。
 第2次大戦の軍人、軍属、一般国民の死者(犠牲者)は2700万人にのぼると推定されている。日本は長崎広島を含めて約300万人。ロシアは外国からの侵攻の度に多くの犠牲者を生んだ。第2次大戦後は本格的な社会主義への転換を図り、スターリンの権威引き締めによる内戦状態、更なる犠牲者を生んだ。国旗の赤は国民の血であり国土を染めた人々の生存のための犠牲の色として受け止められている。
 ロシアにしてみれば、旧衛星国のウクライナのNATO参入は脅威であり、西側寄りの姿勢そのものが侵略行為に映る。領土喪失の「トラウマ」は数百年にわたり国民のDNAとして存在する。領有権の侵害は即、国民の生命財産存亡の危機として受け止められている。平和日本は「北方四島」の返還を数十年にわたり要求を続けている。ロシア人のトラウマ(DNA)を見てみれば、これがいかに不可能に近いことかが判断できよう。第2次大戦、日本は主に中国大陸での戦争を「大東亜戦争」と称した。ロシアはファシズムに対抗して多大の犠牲者を出しドイツを解放したという意識から「大祖国戦争」と今でも教科書で記載している。1億4千万人のロシア人にとって現在の平和は仮初めの姿でしかないようだ。彼らのその意識は常に戦場にある。超大国アメリカに対し中国と連携してこれに対処する。北京五輪の競技採点やROCへの対応にこの「友好国間」の共通認識が今回は強烈に存在した。
 ならば、五輪は「平和の祭典」などではない。彼らにとってここはまさに戦場そのものなのである。  (陽)