ナデシコの国

 「私だけ生き残って申し訳ない…」能登半島を襲った大地震で生き延びた高齢女性が避難所でこう漏らしたという。犠牲者が百人に近づこうとしている時に、助かった命だ。誰が咎める者がいようか。よくぞ生き抜いてくれた。
 元旦を故郷で迎えた人達も多く、家族団らんの一時を奪い去った災い。コロナに続いて再び邪悪な魔の手が日本列島に襲来した。
 ここでわずかながらの救い、その善の手も考えてもみた。緊急速報で津波襲来の警報をくり返したNHKの女性アナウンサー「命を救う行動を!」「今すぐ逃げて!」の連呼が多くの犠牲を未然に防いだようだ。
 羽田空港における海上保安庁の飛行機は、必要資材を載せて離陸、日航機と衝突炎上した。派遣先に急ぐ海保5人の乗組員が帰らぬ人となったが、日航乗員乗客約4百人は全員無事だった。直後の外国各マスコミは日本の奇跡、乗員の避難誘導などその技量の高さを大称賛している。
 苦しみ悲しみの中に、ささやかながらの一条の光明を見ては、心を一時(ひととき)落ちつかせる。不謹慎に思えるかも知れないが、避難をくり返し叫び続けたNHKのアナウンサー、日航の乗員達の献身的な行動、災害に対峙する官民の各種団体も実に沈着冷静な行動で国民の信頼を受ける。まずは日本企業の女性従事者達の災害対応能力を高く評価したい。
 野山に自力自生する、淡紅色の花は、夏や秋に咲く「ナデシコ」。派手さはないが景色によっては映える存在感のある素朴な花。実に「大和ナデシコ」の国だ。日本という国は。  (陽)