戦争の「利益」

 ロシアは第2次大戦独ソ戦終結にあたる3日、戦勝80周年の記念式典を当時の激戦地、旧スターリングラードで開いた。この戦闘でソビエトが2百万人の犠牲者を出した。ナチスドイツの侵攻を打ち破り、欧州に台頭するファシズムに勝利した。
 時が移りソビエト社会主義共和国連邦が崩壊、「ロシア」第2次プーチン政権となってファシズムの台頭やNATOの脅威を理由に、ウクライナ「解放」を旗印に昨年2月24日、一方的な侵攻を開始。当初、首都キーウは長くても一週間で陥落すると目論んだが、1年の時を経ようとしている。当時、国連は緊急総会を開き、加盟174カ国中141国がこれを「否」とした。正規兵の損失が激化。露は当初からドイツの音楽家で、ヒットラーお気に入りだったワグナーの名を冠した、民間軍事会社「ワグネル」と契約を結んで対応している。ワグネルは、正規の国軍が担当しない情報収集や工作活動など表裏の戦争行為全般を手がける。このワグネルも要員不足に陥ると受刑者に「罪一等を減ずる…」と志願者を募った。ロシア各刑務所に服役している重犯受刑者を優先して雇用した。
 ウクライナ東部戦線の「ワグネル」の戦い方は、受刑者部隊10人(一個班)を軽武装で進行させる。激しい消耗戦を展開させると、次の10人が20~30メートルを前進して俺体壕を(タコ壺)を掘り、身を隠す。これが消滅すれば次の10人が同じパターンで前進をくり返す。人命無視の消耗戦。ワグネル受刑者部隊は身体被弾しても立ち上ったり、即座に倒れる事がないという。アフガニスタンのイスラム過激派と同じような光景。イスラム過激派は戦闘前に薬物を使用して心身を覚醒させてこれについた。「ゾンビとの闘い」とウクライ兵は語る。基本的にロシアの戦闘パターンは昔から、消耗戦。民間人の生命など尊重すべきものでも何でもない。
 第2次大戦ぼっ発から3カ月後、ロシアは一方的にフィンランドに侵攻した。1939年の事。結果はフィンランドの徹底抗戦で独立を守ったという「冬戦争」。実はこの侵攻に端を発して、ナチスドイツを勇気づけた。84年前と同じ戦術だった。まず戦車部隊が車列を組んで進攻。この後装甲歩兵車両で、部隊を投入。シラミつぶしに1点、1軒を制圧する。ウクライナ側はフィンランドに習い、ロシアが当初投入した兵員をことごとく消滅させた。戦車は前後方の一台づつをドローンや対戦車ロケットで破壊。移動不可能に陥った隊列を次々に攻撃。
 この他ロシアの戦闘機爆撃機、黒海艦隊の旗艦などロケットやドローン攻撃で次々と撃破。ヘリコプター部隊は確実にしとめた。費用対効果の面からも絶大な「利益」を導き出した。大国ロシアはなぜこの旧衛星国の弱小国(失礼!)に痛手を負うのか。そして実質的な敗退への道をたどろうとするのか。▽ウクライナ(宇)志願兵の強靭な愛国心。▽諸外国からの宇支援▽最新鋭兵器提供の条件に、宇の国政安定化、一部財閥や政府高官の汚職摘発。――などが戦果に結びついた。
 一方、露について「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジンはプーチン氏の最側近の1人。ロシアは民間軍事会社の設立が禁じられている超法規的な存在。ウクライナ侵略では徹底的に規模を拡大し戦闘前面に展開して、露国軍との度重なる摩擦をくり返して来た。プーチン政権下の新興財閥同様、国からの手厚い保護と支援で維持された組織の1つ。財閥同様、国家予算によって賄われた存在で、その利益はプーチン氏個人の懐を潤す事につながると、米国側は見ている。国民に危機感を煽り、正当な理由なく一方的に領有権を拡大する行為そのものが権力者の利益となるならば、必ずや将来、鉄槌が下されよう。無論それまで、ウクライナの民は待てないだろうが。   (陽)